故郷・忘れ難く・・・・Copy

「故郷忘れ難く・・・・」。美しい言葉ではある。しかし、故郷を離れる、故あった捨てる、あるいは、故郷を追われる・・・・色々な形で離れなければならないのも「故郷」である。特に、個人的にも、社会的にも、一つの出来ごととし故郷を離れることを話題にしても、乾燥した桶から、あるいは、老朽化した桶から、水が漏れる様に生じる「人口減少」を、故郷・喪失として話題にすることはない。今回、紀伊半島の大水害で話題になった「十津川村」も、120年前の事である。寧ろ、「英断」として、今日に生かされるべき「経験」ではないかと、私は思う。故郷とは、先祖も含めて、「新・十津川村〜現・十津川村」の、双方の現在が、全て「故郷」なのだと・・・も。

私は、北朝鮮からの引揚者だが、五木寛之が言うが如く「デラシネ」である。彼の家族も、38度線を超える時に、母親を彼の地に失い、失意の父と、幼い妹を守って、彼と弟の奮闘で、父の故郷である「筑豊」に帰国したのである。決して、故郷で歓迎されなかったことは、彼のエッセイの其処此処に、それとなく記されている・・・親類縁者へのささやかな感謝も含めて・・・養子の父の故郷に、母の祖母、そして一家が引き揚げて来たのだから、父の実家(祖母)に歓迎さるはずもなかった・・・ただ、口減らしの様に、少年期に朝鮮に一人旅立った弟を不憫に思う長兄だけが、何くれとなく援助をくれたのが、母にとっては、慰めでもあり、励ましでもあったろうと、私は思う。まだ独身の身で、「家を建てたい・・・」という私の希望に、全面的に支援(経済的には無)してくれたことは、父以上に、今も身近に感じている・・・私が、祖父に似ていたからだとも言われたが・・・。

今、被災地(東日本、紀伊半島)で、土地の荒廃と共に、生活再建のために、あるいは放射能を避ける為の「疎開」が、話題になっている。そして、その「疎開」を、あたかも「悲惨な出来事」の様に、カメラの前で協調する、芸人キャスターがいる。私は、寧ろ、「住めば都・・・」と、励まして上げるべきであろうと考える。
人間は、「移住」という知恵を持った「いきもの」なのであり、非常に優れた「柔軟性」を有する生き物なのである。つまり、手段と方法があれば、決して「ガラパゴス」化はしないいきものなのである。もし、移住を阻む感情が勝るとしたら、それは、見栄と我儘でしかない。特に、子供は、変化に柔軟に適応する・・・自分のこととして、革新的に言えることである。80歳、90歳の「馴化」の難しさで、子供の柔軟性を判断してはならないと、思う。
別れの一瞬は悲しい。涙も溢れるだろう・・・特に始めての離・故郷の体験は・・・新しい出会いの楽しみ・快感を知らないのだから・・・・それを、子供に、離れる悲しさと、新しい出会いの恐怖だけを語る、無責任な親、大人、TVの芸人キャスターが強調する。私は、これこそが「亡国」の行為だと思う。

住み、生き、生活をする場所が「故郷」なのである。私は、北朝鮮興南の地に生れた。そして、西湖津小学校に、4年生の一学期まで学んだ・・・私の故郷である。それを忘れることはない。しかし、その級友の一人も記憶によみがえらない・・・引き上げて来て入学した「中間小学校」、そして「中間中学校」・・・もう、お付き合いはなくても、幾人かの級友達には、それぞれに思い出があり、今日の私の人間形成をした痕跡を見つけることが出来る。そして、興南の、平穏、安穏な日々にはなかった、半ば乞食の様な生活、闇商売で繋いだ「命」の印象は、その印象でもって、私の成長の故郷でもある。

故郷を捨てる。新しい故郷を得る・・・・。企業人として、幾多の方々と話を楽しみ機会を得たが、総じて、故郷を捨てた方、離れた方・・・・特に、戦災で浮浪児体験を持つ方、施設(鐘が鳴る丘・的)で成長した方の方が、話題が豊富でもあり・・・ご自分の事を語るのは、聞いている私が、その切欠を提供して時だけだった。愚にもつかない、自慢話・・・家系の自慢等・・・を、際限なく語るのは、戦災も知らず、戦後の食糧難も経験せず、故郷にしがみついて生きた人々だった。高度成長期・・・「今日は、ひと坪売って来たから豪勢に遊ぼう・・・」等と、銀座の高級クラブで散在する若者の姿が、話題になっていた頃である。
人は、故郷を一度は捨てるべきかも知れない。私とて、先祖代々の家を大事に守って生きている人々を羨ましいと思うし、その努力には敬服する・・・しかし、それは「運」なのである。彼等とて、「運」なればこそ、素直に、「冒険心」に封をして日々を過ごしているのだろう・・・と、私は推察する。
しかし、その最後の日が訪れた時・・・その時の覚悟を、子孫に伝えるのは、困難を極めるだろうとも思う。芸人が、自分の子息を芸人に仕立てることには比較出来ないであろう。働くことを学ばなかった、親が身をもって押し得なかった、芸人の子の、安っぽい、くだらないギャグが、夜のTVを独占している・・・その中から誕生して、ニュースキャスターになった芸人キャスターが、現代の故郷喪失を嘆き、政治を批判する・・・この軽さの方が、重大な問題であろう。