ルサンチマンの歴史観・・・これを「平和教育」と云うか?

西日本新聞の投稿欄(13日)に、次の様な主旨の「論」が掲載された。小学生の投稿である。幼いと言えば幼いのだが、それだけに、戦後を生きて来て、その戦後の幸運を享受してきた「私」には、一つの時代の終焉を感じさせるものであり、新しい時代感覚に、近代化の歴史で、この民族が学んだものが、歪められて継承されていないかとの危惧を感じるものでもあった。
全文(原爆使用正当化への怒り)は短いので、ここに掲載できないこともないが、それはプライバシーの干渉にもなるだろうから、控える。その論旨は・・・

*日本の敗北は見えていた・・・
全国の都市への無差別爆撃によって、既に日本は敗戦の状態にあった。

*故に、原爆投下の必要はなかった・・・
と言うものだが・・・彼の文章からは、教室で教えられた「説」の「複写・コピー」として、私は読んだ。
私は、終戦の日に「9歳」・・・それまで、育った北朝鮮興南の地が外国であるとは、一度も考えたことはなかった。只、父が、内地(日本)の高等学校―大学に、私を学ばせたい(可能ならば、中学校から)と思っていることを感じながら、「内地とは素晴らしい所なのだろうか・・・」と、太平洋戦争が勃発した時に帰省した、広島の田舎や、父の郷里である、筑豊炭鉱の街とは違う「日本」を想像するだけだった。
そして、敗戦―歓喜する朝鮮人―住居の交換・・・等などの体験を経て、小舟での南朝鮮への脱出・・・を目にし、体験した・・・そして、翌年、広島の原爆に依る焼跡を目にした。広島には、数十年の間は草も生えないだろうと言われたが、翌年の春には、柿の木の芽吹きが新聞に報じられていた・・・この時代の小学生は、新聞を読んでいる子が多かった(私の感想)。
昭和25年・・・中学生。弁論部に入部。毎月、論文を書かされ、先輩と教師の指導を受けていた。弁士として演壇に立つ機会は与えられなかったが、それなりに、日本の復興を論じ、平和を論じ・・・2年上級の方の論文に、カントからの引用があったことを思い出したのは、もう30歳に手が届く頃だった。新制中学校の「一期生」である。因みに私達は「三期生」。その時に、指導の先生の評価を得たのが、広島に芽吹いた「柿の木」を論じたものだった・・・私の内心で、今も疼きとして誇りにする「論」である。
戦後半世紀を遥かに過ぎて、色々な資料が発見され、それを学者、評論家が論じる・・・その中には、この小学生の様な「論」がない分けでもない・・・直接に戦火からは遠い所に日々を過ごしていて、口当たりの良い、勇ましい「論」ではあるが・・・75歳の現在に於いても、「戦争」を絡めれば、己の人生の総括は難しい。
彼の言う・・・日本の敗北は見えていた・・・誰の目に見えていたのか。敗北を認めるのは「誰か?」。満蒙に数師団、朝鮮半島に2・師団の兵力を温存していて・・・しかも、闘う姿勢を崩さず・・・「敗者」として認めることが可能なのか・・・・日本は、「敗者」になる方法に無知だった・・・作法を知らなかったのである。
8月16日には、ソ連が北海道に進駐して、日本列島を分割する協定もルーズベルトとの間に成立していた。トルーマンは、あるいはハリマンは、それを阻止するために、「原爆」を使った・・・私は、そう理解しているが、蒋介石、宗美麗、その弟の宋子文の執拗な、原爆投下の要求があったことも、その資料からも明白であると言う。満蒙の残存兵力、朝鮮半島の残存兵力・・・これが無傷で、内地に帰還して・・・Coup d’étatの恐れなしとしなかったのは、阿南陸軍大臣だけではなかったはず・・・・戦後が、スムーズに始まったのは、Coup d’étatのエネルギーを削いでいて可能だった。広島、長崎の、軍備・都市の機能が壊滅していて可能だった・・・もう、小学校、中学校の歴史教育も、そのスパンを十分に拡げて行われるべきではないか。

アメリカ憎しの歴史教育から、未来は生れない。9・11ですら、その後の行動の検証がやっと行われる時間帯なのである。真珠湾の総括も、満州事変に発した、国際連盟脱退の総括もいまだし・・・自慢ではないが、私達世代以後の世代に「平和教育」は行われていないのではないか・・・

砂漠化したの中に、一本の水路を引くのに、日本の医者の献身的な働きがなければ不可能な国・アフガニスタン・・・・黄金のプールで育った、テロリストを師と仰ぎ、文明の破壊者としてしか存在できないイスラム・・・今や、中東は、欧州の「中古武器」の処理場と化している・・・「中古武器」が底を尽くまで、この騒乱は収まらないだろう。
何故か・・・この小学生の様な歴史観が、国民を、国民として育てていないのである。ルサンチマンだけが、評価される・・・明日への一歩が、恨みから生れるはずがない。この様な小学生の投書が掲載されること自体が、日本も、まだ危険水域にあることの証だろう。